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東京地方裁判所 昭和36年(ワ)1959号 判決 1962年5月24日

判  決

東京都足立区大谷田町二丁目一六番地

原告

飯岡静雄

(ほか四名)

右原告五名訴訟代理人弁護士

長谷川宏

東京都新宿三丁目三六番地

被告

日立炭素工業株式会社

右代表者代表取締役

京野四郎

右訴訟代理人弁護士

土屋豊

右当時者間の昭和三六年(ワ)第一、九五九号株主権確認株券交付請求事件につき、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

被告と各原告との間において、原告飯岡静雄は被告会社の三、一〇〇株(一株の金額五〇円。以下同様)の、原告飯岡栄子は五〇〇株の、原告大津登、同高野哲男および同塚越アキは、各一、〇〇〇株の株主であることを確認する。

被告は原告飯岡静雄に対し、被告会社の記名式の株券三、一〇〇株を、原告飯岡栄子に対し、同株券五〇〇株を、原告大津登および同高野哲男に対し、同株券各一、〇〇〇株をそれぞれ発行交付し、原告塚越アキに対し、同株券一、〇〇〇株を訴外塚越主一名義で発行し、その株主名簿の名義を同原告名義に書換のうえ、交付せよ。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

原告ら訴訟代理人は、主文同旨の判決を求め、その請求の原因として、

一、被告会社は、昭和二五年九月二九日資本の金額一〇〇万円、設立に際して発行する株式の総数二万株、すべて額面株式で一株の金額五〇円として設立された株式会社であるが、原告塚越アキを除く原告ら四名および訴外塚越主一は、被告会社の発起人となり、被告会社の発行する株式二万株のうち、原告飯岡静雄は三、一〇〇株、同飯岡栄子は五〇〇株、同大津登、同高野哲男および訴外塚越主一は各一、〇〇〇株の株式を引受け、同月二五日その引受株式につき、株金の払込をなした。

二、訴外塚越主一は昭和三五年一月三一日死亡し、原告塚越アキが相続により同訴外人の地位を承継した。

三、しかるに被告は原告らが被告会社の株主であることを否認しかつ株券を発行交付しないので、原告らはそれぞれ被告との間に、原告らが被告会社の前記各株数を有する株主であることの確認を求めるとともに、被告に対し原告らにそれぞれ、前記各株数の被告会社の記名式株券を発行交付する(但し、原告塚越アキに対しては、訴外塚越主一名義で発行し、その株主名簿の名義を同原告名義に書換のうえ交付する。)ことを求めるため本訴に及んだ。

と述べ、

立証(省略)

被告訴訟代理人は、「原告らの請求を棄却する。訴訟費用は原告らの負担とする。」との判決を求め、答弁として

原告ら主張事実中、株金払込の点を除くその余の事実はすべて認めるが原告塚越アキを除く原告ら四名及び訴外塚越主一は株金の払込をしていないから原告らの請求は失当であると述べ、

立証(省略)

理由

被告会社は昭和二五年九月二九日原告ら主張の株式をもつて設立された株式会社であること、原告塚越アキを除く原告ら四名及び訴外塚越主一は被告会社の発起人となり、原告飯岡静雄は三、一〇〇株、同飯岡栄子は五〇〇株、同大津登、同高野哲男及び訴外塚越主一は、各一、〇〇〇株の株式を引受けたこと並びに訴外塚越主一が昭和三五年一月三一日死亡し、原告塚越アキが相続により同訴外人の地位を承継したことは当事者間に争いがない。

ところで株式会社においては、それが物的会社であることの要請上、会社成立前に株式の引受がなされることが要求せられるのみでなく株式の引受をした発起人又はその他の株式引受人によつて株金全額の払込がなされることが要求せられることは勿論であるけれども、仮にかゝる発起人又は株式引受人において株金の払込をしなかつたとしても、これが発起人の責任の原因となることはありえても、会社が成立した以上、これらの者は直ちに当該会社の株主たる地位を取得するのであつて、その地位を喪失するものではない。もつとも払込をしない発起人以外の株式引受人は失権手続によりその権利を失うことがあるが、株式の引受をした発起人についてはかゝる失権手続はなく、株金の払込の有無によつて株主たる地位に何らの消長をきたすものではない。

これを本件についてみるに、原告ら(但し原告塚越アキを除く)及び訴外塚越主一がその引受けた株式の全額につき払込を了したか否かについては、原告ら提出の証拠をもつてしては必ずしも明らからではないが、前記当事者間に争なき事実によれば、原告らはその主張の株式を有する株主といわなければならない。しかして株券が株主権を表彰する有価証券であつて会社設立後遅滞なく発行すべきものとせられる以上、被告において他に特段の主張立証のない本件にあつては、被告は原告らに対し、原告ら主張の株数の記名式株券を発行すべき義務あるものといわなければならない。

以上の理由により、原告らが原告の主張の株式を有する被告会社の株主であることの確認を求め、各原告に対し右持株に応ずる株数の被告会社の記名式株券の発行交付(但し原告塚越アキに対しては訴外塚越主一名義で発行し、その株主名簿の名義を同原告名義に書換のうえ交付)を求める原告の本訴請求は理由があるから正当としてこれを認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用し主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第八部

裁判長裁判官 長谷部 茂 吉

裁判官 白 川 芳 澄

裁判官 宍 戸 達 徳

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